乾燥機のユーウツ

2009年10月11日

コインランドリーの乾燥機を見るたびに
せつない気持ちにかられてしまう。

下町の住宅街の一角には、ランドリーなんて
ハイカラな名前で、時代遅れの簡易洗濯所が
必ずある。

看板はすすけ、ブルーの柄に、ヤニで黄色く
染まったかのような白い文字が申し訳程度に
ランドリーと刻んである。

海岸通り沿いの潮風にやられた看板ならば、
同じようにすすけていてもまだ幸せ者だが、
排気ガスにさらされたそれは、一目見るだけで
いとおしい。

中に入って、洗濯機にドバッと放り込むように
籠を傾けると、上側についている乾燥機は
「おっと失礼」と眠りから覚めたようにブルル
とビクつく。洗濯場のドアはなぜか開いている
ことが多く、夜は寒いが、昼間なら木漏れ日が調度
いい塩梅でうたた寝を誘うのだろう。

グワシグワシと洗濯機は、うねりひねり、時に静止し、
そして荒々しくも繊細な回転と脱水で、仕事をこなす。
一見機械的だが、細々とした動きを器用にこなす姿は、
女性的な優しさすら感じられる。

対する乾燥機は男性。

「オレって、不器用なんスよねえ」
と半ばふて腐れ気味に、ひたすら単調な回転運動を
繰り返す。乾いたかどうかなんて関係ない。
ただ、決められた時間を決められた通りに回転
するだけなのだ。

二人が付き合ってるとすると、間違いなく、乾燥機は
洗濯機の尻に敷かれているタイプだ。
名も無き定食屋で、おかみさんが、注文から調理まで
一人で切り盛りし、当の亭主は水の入ったコップを出し
てあとは、グータラテレビ鑑賞・・・なんて姿を見たこと
があるが、洗濯機と乾燥機もそんな風な気がする。
昔はドラムでドンチカバカスカやっていたが、今は
面影無く、でっぷりと太ってグータラな男を、働
き者の女が世話している・・・みたいな。

しかし、それでも回ることしかできない乾燥機は
せつない。同じ回るものとして、ハムスターがグルグ
ル回る奴があるが、あの時だって誰もが必死なハムス
ターにばかり目が行き、グルグルのほうなんて一向に
注目してやれない。

回ることしかできない不器用な男。

子供ができて「高い高いやって」とか、「ヒコーキや
って」とか「ボール投げして」とか色々言われても、
ただひたすらにグルグル回してやることしかできない
乾燥パパ。しかし、そんな不器用な親ゆえ自立の早い
子供は、「ウチのパパは世界一うまくグルグル回して
遊んでくれます」と小学校の作文で書くとか、書かない
とか。

回ることしかできない不器用な男。

派手な下着を放り込んでくれた一人暮らしの若い女性
に恋をし、いつも以上に多めに回ったりするも、届か
ぬ想い。片思いの女性が隣の乾燥機にパンティを放り
込むとドドド・・・なーんて悔し塗れの舌打ちをする。
逆に汗臭い作業着なんかが放り込まれると、ふてぶて
しくも低速で回転し始める乾燥機。

乾燥機の好みのタイプは、Tシャツにメンパンなどの
洒落気は無いが健康的な女性。シルクやウールなどの
ブランド物好きで贅沢嗜好の女性とは、不器用がゆえ
に、釣りあわないのだ。何かの間違いで、高価な毛皮
などが放り込まれると、乾燥機は「とりあえずヤラせろ」
と飢えたハイエナのように手荒く扱い、滅茶苦茶にして
女性を激怒させてしまう。

しかし、そんなやり取りも下の洗濯機はちゃーんと見
ていて、若い女性客が訪れるたびに、「アンタ!今!
色目使ったでしょ!」と気が気でない。

うす汚れ、ほとんど使用されていない乾燥機に
小銭をチャリンと放り込み、丸い形の扉を開ける度に、
囚人に飯を与える看守のような気持ちになってくる。
そのバカデカイ口に飯を与え「おい、元気か?」と
話しかけ、乾燥機が「最近はですねえ・・・」などと語り
かけた瞬間、問答無用にバタンと扉を閉めてしまう自分。

1時間後、洗濯物を取りに再び丸い扉を開けて中身を
取り出すのだが、この時、一度で全てを回収できるの
は稀で、大体が隅っこの方に丸まった靴下がチョコリ
と座っていることとなる。

そんな時乾燥機は、「オマエ、疲れているやろ?
なんかいつもより臭かったで」と言っているかのよ
う。身近な家族や友人よりもコイツはある意味、ボク
のことを知っているんじゃねえか、なんて思うと空恐
ろしい。

扉を閉めた後、乾燥機はまた、静かにうたた寝をし始
める。いつ誰が訪れてもいいように。

かつて単体で多かった乾燥機だが、今は洗濯機
との複合モノが増えているという。
それもこれも、乾燥機の孤独さを配慮してからなのだ
ろうか。